ものはためし

何事も実際にやってみなければわからない。いろんな物事をとにかく試します。

ネット移民のための新しい教科書

      2015/12/29

少し前、ニコニコ動画で有名なドワンゴの川上量生会長がジブリに入社したことが話題になりました。
そのジブリの会報誌「熱風」に川上氏が連載していた文章がまとまった書籍「鈴木さんにも分かるネットの未来 (岩波新書)」を読みました。

インターネット、特に日本におけるネット文化の過去と現在、そして未来について書かれています。扱われているトピックは幅広く、現在のインターネット界隈における主な話題はすべて網羅されているのではないでしょうか。
インターネットのことを良く知らない鈴木さんにも分かるように、という趣旨で書かれているために、平易な文章で懇切丁寧に書かれています。また、入門書のたぐいでよくあるように、同じ物事を少し違った角度から何回も説明していたりもします。

過去と現在の説明については、しごくまっとうな内容で、奇をてらった箇所もなく教科書のような内容となっています。このような文章はその対象をきちんと理解していければ書けません。時代の流れを先取りするようなサービスを次々と仕掛けている著者は、やはり物事の本質をつかむ能力がずば抜けているのだな、と改めて感心しました。

未来のことについては、トピックごとにそれぞれほんの少しずつしか触れられていなくて、あくまで個人的な意見というスタイルが貫かれています。ただ、その内容についてもすべて順当かつ無難なものになっていて、目新しいものを見つけることはまったくできませんでした。
著者の頭のなかをのぞけるかと思っていたので、そういった意味では期待はずれの内容です。

私自身、インターネットが普及する前、パソコン通信の頃からPCに触れていましたし、現在ではインターネットに携わる仕事をしていますので、本書で扱われているトピックに関しては、それなりに理解しているつもりではあります。
そのため、既知の過去と現在について書かれた部分は正直なところ退屈きわまりなく、読んでいて眠気を抑えるのに苦労するばかりか、寝落ちしてしまうこともしばしばありました。

しかしながら、これまでネットをツールとしてしか触れていなかった人、これからインターネット業界で仕事したい人が、日本のネット文化をいちから勉強するための良い教本になると思います。

 - 書評